●インタビュアー「K」のひとこと

「10秒、体をとめる」だけで、健康な体をつくれる「10秒ポーズ健康法」。
理学療法士として28年間、のべ8万人以上の運動指導をされてきた、高齢者専門の「リハビリの超プロ」である福田裕子さんが提案されている健康法です。
「一生歩ける、健康な体づくり」がテーマの本ですが、実際にお話を伺い、その思いの深さに、私の心はふるえました。
どんな思いでこの本をつくったのか。読者に、どんなことを感じてほしいのか。
福田さんはときおり涙を流しながら、『10秒ポーズ健康法』にこめられた思いを、そして未来への願いを語られました。
そのお話を聞いたとき、心の奥底から、この本をひとりでも多くの人に読んでもらわなければならない。そう強く感じました。
とにかく、まずはこのインタビュー記事を読んでください。
きっと、この本が「まわりの人々とともに、明るい未来をつくるための本」であるということがわかってもらえるはずです。

978-4-7631-3195-9


◆「健康」とは、明るい未来をつくること

◎幸せそうじゃない高齢者と介護現場を救いたい

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「10秒ポーズ」、私も実際にやってみたのですが、本当に効きますよね! たった10秒なのに、肩こりがすごく楽になりました。
この「10秒ポーズ健康法」はどのようにして生み出されたのでしょう。

福田:
もともと私は、介護予防をしたいと思っていました。高齢になって、体が思うように動かなくなる前の予防です。
体が悪くなっていても、多くの方は自覚がないんですよね。膝や腰が痛くても、働いている間は一生懸命だから、自分の体はあと回しにしてでも毎日同じ作業をしてしまう。
力仕事の農作業で立ちっぱなしとか、最近だと、オフィスワークで座りっぱなしとか。
そこが大きなリスクになっているのに、防ぎきれてないんですよ。
だから、何か楔を打たなきゃいけないと思ったんです。

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「介護予防について発信していきたい」と強く思うようになったのは、なぜでしょう?

福田:
「ありがとう」って口では言ってるんだけど、顔が全然笑ってなくて、苦しそうで……そういう、「幸せそうじゃない高齢の人」が、介護の現場にはたくさんいるんです。
ああ、こんなふうに体が悪くなってなかったら、きっと違う幸せがあったはずだなって思ったんですよね。
膝が痛くて、「ここから私の体切って欲しい」「切ってくれたらどんなに楽か」って言う人もいて……。

私は、体が不調になって動かないというのは、その人が一生懸命、自分以外の誰かのために働いた結果だと思うんですよね。
不調になった体は、その人が頑張ってきた「勲章」なんです。
それを「切ってしまいたい」と思うということは、その人が背負ってきた人生全部を否定してしまっているんじゃないかと。

それでね、一緒に働いていた、まだ20代の同業者の子が「50歳になったら、私死にたい」って言い出したんですよ。

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ええ!? 介護現場の人も、そんな思いを抱えてしまうんですね……。

福田:
そう、未来が明るくないなって思った。毎日、寝たきりの人たちのケアをして回るのが私たちの仕事じゃないですか。でも、長く介護施設で働いていると、元気だった姿を知っている人が、だんだん弱っていくのを見なきゃいけないこともあって。

そうやって過ごしているなかで、一緒に働いている看護師さんが、痛み止めや解熱剤を内服しながら仕事していることもあった。介護の仕事で自分の体を痛めてるんですよ。

そういう人たちを見ていて、私、何とかしてこの人たちの体を守らなきゃって思ったんですよね。じゃないと、介護現場で人が壊れちゃう。

◎パーキンソン病のおばあちゃんが、はしごをのぼった!

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そういうスタートだったんですね。その後、介護予防にまつわる福田さんの活動は、どのように広まっていったんですか?

福田:
最初は、誰も予防なんてしたいと思わなかったんですよ。始めたばかりの頃は「運動しましょう」って言ったら怒られました。
「自分たちに何させるんや!」という感じで、嫌がられてましたね。

それで、表現の仕方って大事なんだってことを学びました。

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伝え方を変えたんですか?

福田:
そう。その頃、「あらかじめ祝う」──「予祝」という言葉を知りました。日本には、農耕儀礼のひとつとして「豊作を前もって感謝する」という文化があります。秋の収穫を、春に前もって祝っておくんです。それが「予祝」。
その言葉を知ったとき、あらかじめ防ぐ「予防」とあらかじめ祝う「予祝」は、両輪じゃないとダメなんだと思ったんです。

「暗い未来が来るから守ろう」っていう気持ちも大事だけど、「もっと明るい未来をつくりたいから、みんなでこんなことをしていこう」っていう方が、「健康」の伝え方としては正解なんじゃないかと。

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たしかに「10秒ポーズ健康法」って、最終的には未来を明るくするためにやるものなんだなと思いました。だって、体が回復したことによって、新しくやりたいことを見つけた方もたくさんいらっしゃったんですもんね。

福田:
とくにすごいなと思ったのは、「パーキンソン病」のおばあちゃんでした。「パーキンソン病」ってね、進行するんですよ。手が震えたり、すくみ足になって転びやすくなったり。

でも、その人は私の教室に通ってこられて、みるみる回復して、歩けるようになったんです。それまでデイケアに行っていたんですけど、介護施設に通わなくなったの。はしごをかけて車庫の屋根のペンキ自分で塗ったとか、とんでもないこと言い出すんですよ!

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え! はしごをのぼったんですか!?

福田:
そうそう、自分で。「どうしてそんな元気になったの?」ってスーパーに行っても喫茶店に行っても、みんなに褒められるんだって。その人がすごいのは、自分の人生が変わったというよりも、周りの人たちを勇気づけていることですよね。

◎明日死ぬかもしれないけど、今日は歩こうよ

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はじめのうち、介護予防の活動がなかなか受け入れられなかったなかで、それでも続けていこうと思ったのは、なぜだったんでしょう。

福田:
「私が信じなくて、誰が信じるの?」と思うようになったんです。この人たちの回復を本人が信じられなくても、私が信じたいって。

私、理学療法士という「職業」を選んだんじゃなくて、理学療法士という「生き方」を選んだんだって思ったんですよね。日常生活と仕事の場面を区別する「職業としての理学療法士」じゃなくて、絶対に人の回復する力を信じ続ける、「生き方としての理学療法士」を選択したんだって。

死ぬ間際のぎりぎりまで、90歳になろうが、100歳になろうが。
「明日死ぬかもしれないけど、今日は歩こうよ」って言える私になりたい。ならないとあかんなって思った。

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めげそうになったことはなかったんですか?

福田:
実を言うと途中まで、理学療法士、辞めたいなって思ってたんですよ。本当に辛くて。
だって、いつかみんな死んでいくんですよ。リハビリで回復して、「元気になったねー!」って思ってたのに、翌週、月曜日に出勤したらその人が死んじゃってたことがあって。
そのときに「寿命とはいえ、亡くなるギリギリまで運動させるなんて、こんな仕事に意味なんかあるのかな?」と思ってしまって。

でも、少なくとも一緒に歩こうとか、力をつけて運動しようとか……。そういうことをやっているときは、その人のなかには何かしら希望があったと思うんです。

その瞬間は正解だったと思うんですよ。
だって、いつ死ぬかわからないから。

だから、何かしらの希望を持って、「じゃあ歩こうよ」って言うのが私の本業だと思ったんです。

◎いつでも、どこでも、だれでも、カンタンにできる!

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たしかに、本を読んでいて、福田さんの「歩こう」というエネルギーをすごく感じました。一生歩ける体をつくる「10秒ポーズ健康法」のメソッドを書籍にまとめるにあたって、とくに意識されたことはありましたか?

福田:
「読むだけで健康になれる本」をつくりたかったんです。
体が弱ったときでも、お布団の中で苦しくて眠れなくて、夜泣いてても読める本。

誰一人として、できない人をつくりたくなかった。だから、「見ただけで脳の中でイメージできるように」というのはすごく気にしました。

今すぐできなくてもいい。
寝たきりでもいい。
力入れるだけなら、足を上げられない人にでもできる。

「みんなできる」って言い切れる本にしよう、できるって言いたいと思った。

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「10秒ポーズ」のメソッドを書籍にまとめ、多くの方に届けていく過程で、何か変わったことはありましたか?

福田:
私自身、すごく変わりましたね。もともとは、すごく雑な人間だったんですよ。たとえばご飯を食べるとき、ゆっくり「いただきます」と言う時間もなかった。仕事・子育て・家事をやって、慌ただしい毎日を送ってたんです。でも、「10秒、体をとめる」という方法を人に伝えるなかで、自分自身も意識するようになって。

「いただきます」を言うときには、「ヘソビーム」のポーズ(注:ヘソからビームを出すつもりで骨盤を起こすポーズ。座りながらでもできる)で10秒間とまるようになった。そうすると、「今の時間はご飯を食べる時間だ」と意識できて、静かな時間を持てるようになりました。10秒数えるのは、脳の休憩にもなりますしね。
「10秒ポーズ」で、すごく素敵な毎日が始まったんですよ。

◎自分の体、がまんしたり、あきらめたりしないで!

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この本を、一番読んでもらいたいのは、どんな人でしょう。

福田:
やっぱり、介護施設や病院にいる人ですね。
あとは、いろんな理由で外に出ることができない人、産後で自分の体があと回しになっているお母さん、うつで家にこもっている人、現場でがんばっている看護師さん、介護士さん、若い人……。

それから、歳だからって努力するのをやめてしまってる人も。

私、妊娠中でまだ不安定な時期に、要介護の大きな男性に「立たせてくれ」って甘えられたことがあったんです。
トイレの介助をするときに、引っ張ってくれって言われて、「お腹に赤ちゃんいるんだけど」って。辛かったですね。

それなら、「立たせてくれ」じゃなくて、「どうやったら立てる?」と聞いて欲しかった。
私みたいに、言えずに我慢して体張って仕事してる人もたくさんいると思うんですよ。

だから、「歳をとっても自分で立てる」ということが、どれだけ自分以外の、若い人たちの体を守ることになるのか、ちゃんと伝えたいなあと思いますね。

自分が健康になることが、若い人たちのためになると思うんです。
だからこそ、自分の体を一生歩かせてあげてほしいなって。そう思います。

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最後に。本を出版されて、これから福田さんは何をしていきたいですか?

福田:
「一生歩ける体をつくる」っていう言葉に、一生、応え続ける。私自身もね。めっちゃ高いハードルだけど!

(文責:サンマーク出版編集部)
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