2021年、いちばん売れたダイエット本
『「やせたい」なんてひと言もいってないのにやせた1分ねじれ筋のばし』(著者:今村匡子)
じつはこれ、20年の編集キャリアでの最多文字数を更新した書名です。
最も短い『スロトレ』の、なんと8倍。どう見ても文字だらけですね。
「短くて印象的(『ゼロトレ』など)か、いい略称ができる書名(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』→『もしドラ』など)のほうが、圧倒的に認知が広がるのに、なぜこんな長い書名?」と多くの編集者はお思いかもしれません。この、略称をつくるのも困難な長い書名に至った経緯を(ニーズがあるかはわかりませんが)お話ししていきます。
まず考えたのが、著者である今村匡子さんがお持ちの資格と現職、そして対象読者です。鍼灸師と柔道整復師は、どちらも厚生労働省が認定している医療系の国家資格。そして著者の整骨院に来院される患者さんは、ほとんどが30代半ば以降で、40代、50代、上は80代。それを考えると、洋風で少し軽い印象の『〇〇メソッド』『〇〇ストレッチ』は似合わないかも、とアタリをつけました。
次に考えたのがキーワードの設定です。
強そうなキーワードとしては、女性向けの売れたダイエット本ではあまり見かけなかった「ミトコンドリア」、あとは「ねじる」「関節可動域」「1分伸ばす」でした。ミトコンドリアを使って『ミトコンドリア筋でやせる!』、ねじるを使った造語『ねじれッチ』、関節可動域を踏まえた案なども、いろいろ考えました。
最後に、というかずっと考えていたのが、メソッド名に添える文言です。
メソッド名に新しさを出すことができても、そこに「なぜ」「何に」効くのかという「効能」をつけないとなかなか興味を持ってもらえません。
ただ、この「効能」がなかなかのクセモノ。
これまで「痩せる」「不調が消える」「みるみる細くなる」「若返る」など、さまざまな形で謳ってきましたが、どれも使い古されている感じしかしません。僕自身、何度も使った文言も多いですし、類書にもさんざんつけられているので、誰の目にも留まらない気がします。
こうして「何か新しいものがないかな……」とうじうじ悩んでいたときに思い至ったのが「整骨院なのにやせるってなんかおもしろくね?」という開き直りでした。
その開き直りを軸に著者の過去エピソードを掘っていくと「腰痛で来院した患者さんがなぜかやせたと評判になった」という話が。やせたいと願う人が圧倒的に多いのに、やせたいって言っていない人すらやせたというのは強い言葉なのでは、と思います。ただ、これだけで大切な書名は決められません。
僕は歩いたり走ったりしないと、何か思いついたり考えがまとまったりしにくい不便な体の持ち主なので、このひらめきを検証するために高田馬場から池袋までの、いつものコースを歩いたところ、やはりこれがいいかなという結論は変わりませんでした。
その後、本当にいいのかと数週間にわたり何度も高田馬場―池袋コースを歩いて考え、自分の中で定着させていくことで『「やせたい」なんてひと言もいってないのにやせた1分ねじれ筋のばし』にたどり着けました。短い書名がいいのはわかっていましたが、制作期間のほとんどを書名で悩み続けてやっと辿り着いた新しさのある文言なので「もう、これ以外は出てこない」と当時思ったことをよく覚えています。
幸運なことに、この書名をつけた本書は2021年いちばん売れたダイエット本となりました。ですがいまも、もしかしたらもっといい書名があったんじゃないかな、と歩いているときにふと考えることも。
もう少し器用に効率よく仕事をしたいものです〜。