10歳の男の子・中島芭旺くんの初めての著書
『見てる、知ってる、考えてる』の刊行記念イベントが、
2016年9月20日に東京・大盛堂書店渋谷店にて行われました。
この本の帯に推薦文を寄せてくださった、
脳科学者の茂木健一郎さんとの対談です。
この対談の様子を特別に掲載します。
バオくんと茂木先生、ふたりの出会いのきっかけとは?
バオくんはどんな気持ちで本を書いたのか?
茂木先生はバオくんをどんなふうに見ているのか?
あたたかい雰囲気のなかで交わされる自由な会話。必見です。
2:茂木先生の心に響いたバオくんの言葉
◆僕の最大の長所は、一人では何もできないこと
- 茂木健一郎(以下、茂木)
- さて、そろそろ本の中身にいきましょう。
僕は、君の本の中で、いくつか気になるところを折ったり、
線を引いたりしてきました。まずは、7ページ。
「僕の最大の長所は、1人では何も出来ないこと。
それを知っていること。助けてっていえること。」これすごいと思うんだけど、
まずこの項目について質問していいですか?
これ、どういうこと? バオくん。 - 中島芭旺(以下、バオ)
- 一人で全部やっちゃったら、だれとも交流できないと思う。
- 茂木
- 一人でやるんだったら、他人なんか必要ないからと。
- 茂木
- バオくん、
「助けて」って言ったことありますか? - バオ
- 何度も何度も言ってますね。
- 茂木
- だれに言ってるの?
- バオ
- いろんな人。
会った人、全員に言ってると思う。 - 茂木
- お母さんもそうだし。サンマーク出版の編集長もそうだし。
あ、俺もそうだし。 - バオ
- 「帯、プリーズ」って言った。
- 茂木
- そうだった。
「帯、お願いしまーす」ってお願いされたんだった。でもこれ、大人は忘れちゃってるんだよな。
「自分でなんとかしなくちゃいけない」
っていうふうに思い込んじゃってるからさ。 - バオ
- 自分でなんとかしようと思ったら、
逆に「自分そんなすごくないよ」って言っちゃえばいい。 - 茂木
- かっこいいな。
「自分そんなにすごくないよ」って言ったほうがいいって、
大人に言いたい? - バオ
- はい。
- 茂木
- へえー。
◆「不登校」という決断をした日のこと
- 茂木
- じゃあ、次のページ行きますね。
次、17ページ。
「僕は不登校はひとつの才能だと思っています。
それは、不登校するという決断を出来るという才能。
自分を信頼できるという才能。」これはどういうことですか、先生?(笑)
- バオ
- まあ、勉強できなくなっても別にいいんじゃないかなあと。
自分でも勉強できるんじゃないかなあ、と。 - 茂木
- それで、「不登校」という決断をしたんだ、君は。
その決断をした日、覚えてる? - バオ
- 夏休みの終わりの頃……だったと思います。
- 茂木
- 「もういいや」と思ったんだ。それ、勇気がいった?
- バオ
- いりました。やっぱり。
- 茂木
- 君でも一応、勇気がいったんだ。
でさ、「自分を信頼できる」という、これも才能だと、書いてるね。
- バオ
- はい。
自分の決断に、全部任せるっていうことです。 - 茂木
- ふつうはね、世の中のお父さんお母さんは、
子どもが「学校行かない」っていうと不安になっちゃうわけだけど、
君は不安にはならなかった? - バオ
- 全然、ならなかった。
- 茂木
- ほー。これがね、またすごい才能だってことだね。
◆「優秀」はどんどん燃やしていったほうがいい
- 茂木
- 次いきますね。35ページ。
「僕の自信は、根拠のない自信。
根拠がある自信は、その根拠がなくなったらなくなる。」これはどういうことですか?
- バオ
- 根拠ありきの自信って、その根拠がなくなったらすぐに壊れると思う。
- 茂木
- 「根拠がある自信」っていうのは、たとえばなんだろうな。
学歴があるからできる人だとか、そういうこと?
その根拠がなくなっちゃうと、自分がなくなっちゃう。 - バオ
- うん。だから、自分より優秀な人がいると知ったりすると、
それで、それだけで自信がなくなって、だめになる。 - 茂木
- ああ。
たとえば、学校で一番のすごい秀才だったのが、
進学したら自分よりできる人がいて、
それで自信失っちゃうとか、そういうこと? - バオ
- 「優秀なところ」っていうのは、やっぱり足かせになる。
優秀はどんどん燃やしていったほうがいい。
優秀だから、自分に自信がある、というのはよくないと思います。優秀だからと自信をもったら、
その優秀を守るために必死になって、
きっと行動が制限される。 - 茂木
- かっこいいこと言うな。ほんとに11歳か?
なんかごまかしてないか? 実は38歳とか(笑)。 - バオ
- ちっちゃいです(笑)。
- 茂木
- ちょっと置き換えてみてほしいんだけど、
たとえば女の人だったらね、「美人」っているじゃない。
美人が自信になると、美人であるっていうそのことで、
行動がたとえば制限されるってこと? - バオ
- もちろん。
- 茂木
- そうなのか。そういう人、いる?
- バオ
- いるんじゃない? やせようと必死になったり。
- 茂木
- やせようと必死になったりって、
だれのこと言ってるんだ、君は(笑)。
すごいなあ、君は。
◆同じ場所でも違う方向を見れば、また違う景色が見える
- 茂木
- 次に私がピックアップしたのが、47ページ。
「おなじばしょでも
ちがうほうこうをみれば
またちがうけしきがみえる。」これは、どういうことですか?
たとえば、こうやって振り返ると壁が見えるとか、そういうこと? - バオ
- 壁が見えます。
で、それはどんなことにでも見える。
違う見方をすれば、たまに「あ、これ、いいことやん」
みたいな感じになったりする。 - 茂木
- たとえばじゃあ、
「私、不幸せ」って思っていても、
違う方向を見たら、実は幸せが見つかるとかそういうこと? - バオ
- そういうことです。
- 茂木
- おじさんはね、実はこれを読んだときね、
ある人の書く文章に似ているなと思ったんですけど、
だれだと思う? - バオ
- ?
- 茂木
- オノ・ヨーコさん。
バオくん、わかるかな。
ビートルズっていうグループがいて、
その一番人気があったジョン・レノンっていう人の奥さんのオノ・ヨーコさんが、
『グレープフルーツ・ジュース』っていう本を書いていて、
こんな感じなんですよ。こういう文章って、いつ思いつくの?
- バオ
- ゲームしてるときですかね。
- 茂木
- 君、ゲームしながら考えてるんだ。
- バオ
- はい。
- 茂木
- さっきも、控室で麻雀ゲームやってましたけどね。
ああいうことやるとき、考えてるのね。 - バオ
- はい。
◆世の中は、だれかの思い込みでつくられている
- 茂木
- じゃあ、次の私が選んだ金言、68ページです。
これもすごいね。「世の中は
誰かの思い込みによってつくられている。ということは
だれでもつくれるということ。」バオくん、これはどういうことですか?
- バオ
- みんな、「常識、常識」って言ってると思う。
- 茂木
- たとえば、「学校に行くっていうのが常識だよ」とか。
それ、だれかの思い込みなのか。 - バオ
- うん。みんなの思い込みだと思います。
- 茂木
- 世の中はだれかの思い込みでつくられているんだから、
他の人でも、その常識を必ずしもいいと思わない人でも、
世の中はつくれるってこと? - バオ
- はい。常識はつくれます。
たくさんの人がいれば、常識はつくれると思います。 - 茂木
- バオくんは、どういう常識をつくりたいの?
- バオ
- え、いや、僕は常識はつくりたくないです。
- 茂木
- 常識はつくりたくないのか(笑)。
- バオ
- はい。つくりたいとは思ってないです。
- 茂木
- そうなんだね。
でも、これはほんとに、政治家の方にも読んでいただきたいですね。
「世の中は誰かの思い込みによってつくられている。
ということは、だれでもつくれるということ」だよと。
◆勇気があれば怖いものはない
- 茂木
- ではね、次の金言に行きたいと思うんですけど、
これですね、帯に引用されている言葉。74ページです。「いろいろな感情の中で、
僕がもっともたいせつにしているのは
勇気だ。」バオくん、これはどういうこと?
- バオ
- えっと、勇気があったから、
自分が、いろんな人のところに、会いに行けていると思っています。 - 茂木
- そうだよね。俺のとこにもいきなり来たもんな。
勇気さえあれば、怖いものない?
- バオ
- はい。だいたいなんとかなります。
- 茂木
- なるほどね。
では次、91ページ。
「自分を大切にしよう。
話はそれからだ。」これはどういうことですか?
- バオ
- 自分を大切にしてから、話してほしい。
自分のことが嫌いな人が話をしてると、
「自分はだめですし」とか言ってることがある。 - 茂木
- 君、何歳なんだ(笑)。
11歳でそういう人に会ってるんだ。「自分はだめですし」とか。 - バオ
- はい。
- 茂木
- いつ会うの? そういう人と。
おじさんはそういう人は、もういっぱい会ってるけど、
11歳で会ってるんだ。 - バオ
- うん。
- 茂木
- じゃあ、そういう人へ言いたいんだ。
「自分を大切にしよう。話はそれからだ」と。 - バオ
- はい。
- 茂木
- はー。
ちょっと待って。聞いてください。
(会場の人に向けて)みんな、自分大切にしてる?
◆僕の居場所は、だれかのものじゃない
- 茂木
- では、次の文章にいきますね。100ページ。
「人生つまるところ神様は自分なのだと知る為にあるのだ。
上手く行かないのは自分を生きていないから。
自分を生きれば上手く行かない事なんてないと僕は思う。」すごいね、これ。
これは、どういうこと?
- バオ
- 自分が、すべて決めてるんです。
- 茂木
- 実際には、だれかが決めてるわけじゃない。
じゃあ、なんでもできるってこと? - バオ
- はい。
- 茂木
- いよいよ僕が選んだ最後の引用なんですけど。120ページですね。
これもまた深いですよ。「僕の居場所は僕。」
バオくん、これにはどういう思いがあるの?
- バオ
- 僕の居場所は、だれかのものじゃなくて、
自分の体。自分の脳。 - 茂木
- たとえば、じゃああれでしょ。
「学校に行ってないと居場所がない」みたいな言い方するけど、
そんなことないってことだよな。 - バオ
- はい。
- 茂木
- 「居場所は僕」だもんね。
- バオ
- はい。むしろ学校に行ってるほうが、居場所ないです。
- 茂木
- 大人はどう?
会社に行ってないと居場所がないとか。 - バオ
- うーん。
会社に行ってるほうが、居場所ないのかもしれない。
自分の時間がないから。ほとんど。
◆これからの人生設計
- 茂木
- 今年は本を出すという夢はかなって、ベストセラーになった。
バオくんのこれからの人生設計っていうか、これからの予定は? - バオ
- うーん。とりあえず今は……、
今の自分じゃない自分を探したい。 - 茂木
- おー、かっこいいな。
- バオ
- ゲームはしてたいなあ。
- 茂木
- ゲームはしていたいんだ(笑)。
じゃあさ、バオくん、
中学校は当然行く予定はないってこと? - バオ
- はい、ないです。
- 茂木
- これからずっと、そもそも学校というものには行く予定がないの?
大学ってのも行く予定はない? - バオ
- はい。今はないです。
学校じゃなくて、興味のあることをやっていこうと思ってます。 - 茂木
- そうか。
……ということでね、いろいろ進んできたところで。
やっぱり、今ホームスクーリングっていうのが世界的にも注目されていて、
ほんと学校行かなくても、なんでも学べる時代なんですよね。ただ日本の場合、非常に「学校に行かなければいけない」っていう
社会通念が強すぎるんで、だから、バオくんはほんとそういう意味においては
すごくわかりやすい形で、
日本を変えていってくれるのかなと思うんですけど。彼が何やりたいのかっていったら、まだね、11歳だからな。
わかんないもんな。
ただ、すごく好奇心があっていろんなことを学んでいる。おそらく、そのうち出会うと思うんです。
出会ったら、もうあっという間に吸収して、
いろんなことやってくと思うんだよ。期待してるよ。
- バオ
- はい!
(おわり)