『コーヒーが冷めないうちに』本屋大賞にノミネート記念!営業と編集の奮闘記。
【担当編集者】池田
清水の1歳後輩。ほかの編集部員が営業部のみんなから「ちゃん付け」で呼ばれている中、自分だけ「だーいけ」と呼ばれていじられるのが不満。
【担当営業部員】清水
身長147センチ。いつもニコニコと書店を回っているが、社内での発言権が強いため、「影の営業部長」と恐れられている。絵心のなさは絶望的。
◆社員も知らない!?
本のはじまりは、舞台だった!
- 池田
- みなさま、はじめまして。このたび、『コーヒーが冷めないうちに』が本屋大賞にノミネートされたことを記念して、営業部の清水といっしょに、ふりかえり対談をおこないました!
- 清水
- あらためて、本屋大賞ノミネートおめでとう!
- 池田
- ありがとうございます! 文芸書の経験の少ない弊社で、こんなことが起こるなんて。
- 清水
- 社長がめっちゃ喜んでるよね~。
ところでさっそく聞きたいんだけど、この本って、最初は舞台だったんだよね?
- 池田
- そうなんです。たまたま友だちに誘われて見て、ものすごく感激したんです。8回くらい泣いて……。それで、その場で脚本家の川口俊和さんに「これを小説にしませんか?」とお願いしました。
- 清水
- その場で? やるなー!
- 池田
- そこから4年くらいかかって書き上げてもらって……小説を書いたことなんてないなか、川口さんが本当にがんばってくださったんです。
- 清水
- そんな偶然から生まれたんだ! でも、なんだか運命感じちゃうね……。
◆置いてくださってありがとうございます!
カフェ風パネル作成の裏側
- 池田
- 発売前に原稿を読んでいただいたとき、どう思いました?
- 清水
- はっきり覚えているのは、四話で号泣したこと(※妊娠したお母さんが…の話。人気高し)。
- 池田
- 「親子」の話ですね?
- 清水
- そうそう。私も子どもを二人産んでることもあって、自分と重ねちゃったよ~。
- 池田
- 私もあの話、大好きです。というかどの話も大好きすぎて、「これを広めたい、なんとかたくさんの人に読んでもらいたい」と思って、清水さんに相談したんですよね。
- 清水
- そうそう、それを聞いていたから、営業部としてはプレッシャーでさ(笑)。
- 池田
- 書店さんには、どんなふうにお話ししたんですか?
- 清水
- 最初に行ったお店ではね、まずビジネス書の担当さんに、「今度、小説を出すんです」って話をしたの。そこにたまたま文芸担当さんが通りがかって、「販促物がおもしろい!」って盛り上がってくれて、仕掛けてくれることになったの。あの「コーヒー」ならではのカフェ風パネル(※1)はすごくよかったよね。
- 池田
- みんなで販促物について相談してたら、「カフェのメニューみたいなのどうかな?」ってアイデアが出たんですよね。見よう見まねでラフを書いたら、「それ、採用」って言われて。
- 清水
- それをみんなで印刷して、厚紙に貼って、カッターで切って、手で貼って……みんなで手づくりしたよね。
- 池田
- あのとき、朝早くからみんなが手伝ってくれて、泣きそうになりました……。
- 清水
- ほんとうにあのパネルは好評で、パネル持ってかれちゃった事件があったよね!
- 池田
- そう、お店の方からご連絡をいただいて、びっくりしましたね。
- 清水
- あのパネルを置いてくださると「仕掛け成功率100%」って言えるくらい効果があったね。
◆書店さんのアドバイスで
「4回泣けます」を使ったら大好評!
- 清水
- 発売前に、「帯に書いてある『4回泣けます』っていう言葉が響くんじゃないか?」って言ってくださる書店員さんもたくさんいらっしゃったなあ。
- 池田
- あっ、あれ、じつは書店員さんのアドバイスで入れたんです。
- 清水
- えっ、そうなの?
- 池田
- カバーデザインのラフを書店さんに持っていって、いっしょに店頭で見てもらったんです。そのときは、〝泣けるデビュー作!〟っていう言葉を入れていたんですけど、パネルに書いてあった〝4回泣けます〟って言葉を見た書店員さんが、「こっちのほうがいいんじゃない?」ってアドバイスをくださって。
- 清水
- そうなんだ! すごいね、さすがプロだなあ。あと配本の指定をたくさんいただいて、まさかの初版が足りなくなる事件が起きたよね。
- 池田
- まさか……って呆然としました。
- 清水
- 初版分がぜんぶなくなって、そこで初めて、重版を決めたね。うれしかったな~。
◆まさかの!
広告忘れられてた事件!
からの、東北爆走出張!
- 池田
- 少し売れてきて、広告を出せるってなったとき、事件が起こりましたよね。
- 清水
- あ、あの事件ね……。
- 池田
- 広告をすっごく楽しみにしてたのに、マーケティング部の人に「あっ、手配を忘れてた」って言われて。
- 清水
- うん……忘れてたのは、うちの旦那だよね。もうね、その日の夕ごはん抜きにしたから。
- 池田
- えっ! そんな罰が(笑)。そういえば次の日、元気なかったような。
- 清水
- でも、その時に急遽入れた広告が、東北ですごく効いたんだよね。ありえない数字が出たから、注文の電話をくれた店長さんに、「これ、どういうことですか」って聞いちゃったもん。
- 池田
- でも、理由がわからなかったから、東北で聞いてみよう!って、弾丸出張しましたね!
- 清水
- 不純な動機もあったよね、牛タン食べたい、とか。
- 池田
- 牛タンおいしかったですね……、いやいや、そうじゃなくて。
- 清水
- 仙台から山形に行くアポイントの合間に別の書店さんに行こうとしたら、道に迷って、お店の目の前で時間切れ……。「新幹線に間に合わない!」って言って、超走ったよね。爆走。
- 池田
- あのとき、間に合わないからってタクシーに乗って、私がお金を払ってあとから降りたら、清水さんがもう駅に向かって走り出してて、見たらもう米粒くらいになってましたよ。
- 清水
- あれは、一緒に行ってた編集長が「池田さんはフルマラソン出てるから大丈夫! 先に行こう」って言ったからだよ。主犯は私じゃない!
- 池田
- あははは。でも、結局、なんで東北で売れはじめたのかはわからなかったですね。
- 清水
- ある店長さんが「『忘れられないあの日に帰りたい』っていう言葉が、震災を経験した東北に響いてるのかもしれないね」って言ってくださって、気が引き締まるような思いで帰ってきたな。
- 池田
- 本当ですね・・・・・・。
◆そんなこんなで・・・
初のJR広告と、読者はがきにウルッ
- 清水
- そのあと、社長に呼ばれたから、「新聞の全国紙の広告と、JRの広告やりたいです!」って直談判しました。ここまできたら、もう首都圏で広めないと……と思って。
- 池田
- 正確に言うと、清水さん、社長におねだりしてましたよね。「広告やっちゃいましょうよ~」とかって。しかもそのおねだりがかなってて、「先輩、すげー」と思いました(笑)。
- 清水
- そのJRの広告がすごく効いたんだよね。初日から書店さんの在庫が足りなくなって、みんなで直納したよね。
- 池田
- あれはうれしかったです。経理の人が「帰り道だから」っていって、駅ナカの書店さんに持っていってくれたり。
- 清水
- その週に、いくつものチェーン店さんで、文芸1位になったんだよね。
- 池田
- そうそう! 日販さんのランキングでも、文芸1位になって……。
- 清水
- 読者さんからも、感想のはがきをたくさんいただいたね。
- 池田
- 毎日、束になるくらいいただきましたね(※2)。自分だったらいつに帰りたいですとか、自分だったらこれを伝えたいとか……。高校生が「きのうフラれたんですけど、これを読んでこれからの毎日を大事にしようと思いました」って書いてきてくれたり……。
◆著者たってのお願いで!
おかんサプライズ!
- 清水
- そういえば、著者の川口さんのお母さんにサプライズをしたって言ってたよね?
- 池田
- 川口さんは、お母様に、本を出すことをずっと秘密にしてらしたんです。お店でサプライズして知らせたいって。それを聞いて、それはなんとかしなくちゃ! と思って。
- 清水
- どうやってサプライズしたの? 書店さんが協力してくださったの?
- 池田
- そうなんです。ご実家にいちばん近い書店さんにお電話して、事情を説明しました。無理なお願いだったと思うんですが「そういうことなら」って言って置いてくださったんです。
- 清水
- ありがたいねえ。
- 池田
- ほんとに……。そして、発売日にサプライズでお母さんを連れて行ったら、ものすごく喜んでくださって。その後、その書店さんに、お母さんが毎日、本を見にいってらっしゃったって聞いて、本当にうれしかったです……。
◆まさかすぎる!
本屋大賞ノミネートの日、来たる!
- 清水
- 本屋大賞のノミネートを知って、どんな気持ちだったの?
- 池田
- わたし、小説が大好きで、小学生の頃から年間に何百冊って読んでたんです。本屋大賞のノミネート作なんて、その中でも一番最初に読んでたので、憧れがずっとあったんですよね。でも、最初はあまり実感がなくて、書店さんで「本屋大賞ノミネート!」ってパネルと作品が並んでいるのを見たときに、ちょっと泣きそうになりました。
- 清水
- 自分が今まで読んできた、すばらしい作家さんの中に並んでるんだもんね。
- 池田
- 発表当日に、ある書店さんが電話をくださったんです。「ほんとによかったね、あの作品はすごく大きくなったけど、ずっと応援しているよ」って。そのときほんとに、「ああ、ずっとこうやって応援してもらってきたんだなあ」って思いました。
- 清水
- ほんとだね、書店さんには、何度お礼を言っても言い足りないです。本がたくさんある中で、売れるかどうかもわからないのに、私たちを信じてくださって、本当にありがとうございます。
- 池田
- 本当に本当に、ありがとうございます!
(イラスト:大澤皐月 題字:林美紀)