10歳の男の子・中島芭旺くんの初めての著書
『見てる、知ってる、考えてる』の刊行記念イベントが、
2016年9月20日に東京・大盛堂書店渋谷店にて行われました。
この本の帯に推薦文を寄せてくださった、
脳科学者の茂木健一郎さんとの対談です。
この対談の様子を特別に掲載します。
バオくんと茂木先生、ふたりの出会いのきっかけとは?
バオくんはどんな気持ちで本を書いたのか?
茂木先生はバオくんをどんなふうに見ているのか?
あたたかい雰囲気のなかで交わされる自由な会話。必見です。
1:自分の考えを伝えたいから、本を書いた
◆バオくんと茂木先生の出会い
- 茂木健一郎(以下、茂木)
- 本日の司会進行役を務めさせていただきます、
脳科学者、茂木健一郎と申します。バオくん、こんにちは。 - 中島芭旺(以下、バオ)
- はい、こんにちは!
- 茂木
- 今日はバオくんを見に、みんな集まってきたわけだけど、
みんな見えます? バオくん、ちょっとね、まだ小さいんで。
今いくつだっけ? - バオ
- 11歳です。
- 茂木
- 11歳になったのか。
- バオ
- はい。この前の誕生日で、11歳になりました。
- 茂木
- バオくん、まずこの本『見てる、知ってる、考えてる』なんだけど、
9刷で5万部(12月21日現在、17万部)になったんだってね。僕とバオくんがどうして知り合ったかというと、
あるとき、僕がやってるカルチャーセンターにバオくんが突然現れまして。
あれいつだっけな。2年ぐらい前か。 - バオ
- うん、2年くらい。
- 茂木
- 突然現れて、びっくりしたね。
「あれ、小さい人が座ってる!」と思った。
当時まだ9歳だったのかな? - バオ
- 9歳か、10歳。
- 茂木
- で、カルチャーセンターに来ていて、しばらく経ったら、
いきなり「僕、本書くことにしました!」とか言ってたよね。 - バオ
- 言ってないよ?(笑)
- 茂木
- 言ってたよ(笑)。
で、この本の編集者の人が書いた証言によると、
君、いきなり連絡したんだって? - バオ
- はい、いきなり連絡しました。
- 茂木
- そのときまだ9歳だよね。
しかも、いきなりフェイスブックで連絡とったでしょう。
サンマーク出版の人に。 - バオ
- はい。
- 茂木
- なんでサンマーク出版にしたの?
- バオ
- ……なんとなく。
- 茂木
- なんとなく?
- バオ
- フェイスブックで、たまたま見て。
いろいろ投稿してシェアされてる人がいて。
なんかよく見かける人がいたので、その人が編集長らしいから、
とりあえず連絡しよう、みたいな感じです。
- 茂木
- 「とりあえず連絡しておこう」なんだ。9歳で。へえ。
それ、ママにも内緒でやったんだってね。 - バオ
- はい。
- 茂木
- これがみなさん、おもしろいんですよ。
彼、小さいじゃないですか。
だから、ふつう世間はこう考えるじゃないですか。「ステージママ的なお母さんがいて、
バオがなんかプロデュースされてるんじゃないか」
って思う人もいるかもしれないんですけど。バオくんは勝手にやってるんだよな?
- バオ
- はい。勝手にやってます。
- 茂木
- で、ママはなんて言ったの?
- バオ
- すごい驚いてて、「何やってるの」って言われました。
- 茂木
- 「何やってるの」って言われたんだ(笑)。
それで、ママと一緒に、
サンマーク出版へ編集長に会いに行ったんだよね。 - バオ
- うん。
- 茂木
- で、なんて言われた?
- バオ
- なんか書いてみようってことになった。
◆本を書こうと思ったわけ
- 茂木
- この本だけど、これ、一字一句、バオくんが書いてるんだよな。
手書きで書いてるの? - バオ
- もともとの原稿は、ばっちりパソコンです。
- 茂木
- パソコンで書いてるの? ところどころ手書きがあるじゃん。
まえがきの、「この本は僕です」っていう文字とか。
これが、バオくんが実際に書いた、今の字なのね? - バオ
- はい。
- 茂木
- ほかの部分は、手書きで書いてるの? ワープロで打ってるの?
- バオ
- パソコンで打ってる。
- 茂木
- 原稿はどうやって書いたの?
「こういうこと書こう」っていうのは自分で決めたの? - バオ
- はい。
- 茂木
- これが全部? それともこれ以外にもいっぱい書いたの?
- バオ
- これ以外にも、いっぱい書きました。
- 茂木
- それを、編集長が選んだわけ?
- バオ
- はい。
- 茂木
- どれくらい書いたの? 全体で。
- バオ
- この3倍ぐらいです。
- 茂木
- 3倍! そもそも、なんで本を書こうと思ったの?
- バオ
- ……自分の考えを伝えたいと思って。
- 茂木
- 本に書いてあったのは、
「いじめられていろいろあったときの自分に、今の自分の考え方を伝えたい」
っていうことなんだよね? - バオ
- うん。でも、それは「後づけ」です(笑)。
- 茂木
- 後づけなの!? なんなんだ(笑)。
最初はどういうことだったの? - バオ
- 最初は、自分の考えを伝えたいなと。
- 茂木
- 自分の考えを伝えたかった。誰に? 世間に?
- バオ
- 世間に、です。
- 茂木
- それで、結果として今5万部で、まだまだ売れてるってことは……
伝わったんだよな。 - バオ
- はい。
- 茂木
- この本の読者は、大人なんだって。それについてどう思う?
- バオ
- まあ、いいんじゃないかなあ。
- 茂木
- なるほどね。
……おじさん、一応インタビューのプロなのね。
テレビや雑誌でいろいろインタビューの仕事をしてきたんだ。
今日は君のことをインタビューしてるわけだけど、
正直インタビューする相手としては、バオくんが最年少だよ。 - バオ
- うん、知ってる!
- 茂木
- まさか11歳の作家をインタビューする日が来るとは
思わなかったわ(笑)。
◆学校に行かなくなったきっかけ
- 茂木
- バオくん、学校行かなくなったきっかけってあるの?
最初は学校行ってたの? - バオ
- 最初は行ってました。3年生の、夏休みまで。
それまでは、ふつうに行ってました。 - 茂木
- 夏休みが終わったあと、
「もう行かなくてもいいかな」みたいな感じになったの? - バオ
- はい。「行きたくないな」って。
- 茂木
- そうか。なんで「行きたくないな」と思ったの?
- バオ
- 学校の教え方……。
「この宿題をやっとかないと怒るぞ」みたいなことです。 - 茂木
- そうか。それで、学校の先生は、「学校に来い」とか言わなかった?
- バオ
- 言いましたね。すごい言われました。
- 茂木
- で、君はなんて言ったの?
- バオ
- 「嫌です」って言いました。
- 茂木
- お母さんはなんて言った?
- バオ
- お母さん、なんて言ったんだっけ。お母さーん!
- 会場にいたバオくんのお母さん(以下母)
- 「よく言えたね」って、言ったと思います。
- 茂木
- で、どうされたんですか?
- 母
- 学校に言いに行きました。
「息子は、学校に行かない選択をするそうです」って。 - 茂木
- すごいお母さんだ。
じゃ、もうそれでいいっていうことだ。
で、どうなったの? 教育委員会とかいろいろ来なかった? - バオ
- そんなに来ませんでした。
- 茂木
- ああ、もう「そうですね」って感じで?
- バオ
- はい。
たぶん、「どうでもいいよ」みたいな感じだったんだと思います。 - 茂木
- そうか。
バオくんは、自分としては、それでもうスッキリしたんだな。
「小学校行かない」って決めて。 - バオ
- はい。
- 茂木
- それから、どうやって過ごしてきたの?
今は、ふつうに小学校行ってたら何年生になってるの? - バオ
- たしか5年生だったと思います。
- 茂木
- 5年生。
てことは、3年生の2学期・3学期、
4年生の1学期・2学期・3学期、
5年生の1学期・2学期は今途中で、
この期間ずっと学校に行かなかったわけだ。今、ここまでの人生、どんな感じだった?
- バオ
- まあ、なんというか。ずっとゲームしてたかなあ。
- 茂木
- ゲーム好きなんだね。
一方で、『吾輩は猫である』を読んだとか言ってたよね。 - バオ
- はい。『吾輩は猫である』は、文字が小さかったから、
もうちょっと文字をおっきくしてくれたらなあ。 - 茂木
- 老眼の人じゃないんだから(笑)。
◆きっと「変人」だと思われてる
- 茂木
- 今、自分は社会の中でどう見られてると思ってる?
- バオ
- ……「変人」じゃないですかね。
- 茂木
- 変人だと思われてる(笑)。
いくつか質問したいんだけど、まず今被ってる「ベレー帽」って、
君のトレードマークでしょう。
これって、いつからかぶり始めたの? - バオ
- いつからかわかんないんだけど、たしか、
「この帽子をかぶってないと僕に見えない」
みたいな感じにしようと思ったんです。でも、今回の本の帯の写真は、帽子を被ってないのが使われたから、
帽子かぶせて欲しかったです(笑)。 - 茂木
- なんで、帽子を被らないと自分だとわからないように
しようと思ったの? - バオ
- 楽だと思ったから。
だれにも気づかれなかった方が、楽じゃないですか? - 茂木
- 君、そこまで考えてるんだ。
自分が有名人になったときに、
「ベレー帽かぶってなければバオじゃない」から大丈夫だ
っていうことまで考えたってこと? - バオ
- はい。
- 茂木
- そうかそうか。すごいなあ、君は。
今日、ズボンの上に、スカートみたいなの履いてるじゃん。
これはどういう服? - バオ
- たしか着物だったと思う。
- 茂木
- これは? ジャケットは?
- バオ
- わかんない。
- 茂木
- これはやっぱり自分でなんかあるの?
今日はどうしてこの服にしましたか? - バオ
- よくわかんないけど……なんか気に入ったから。
- 茂木
- なんか気に入ったんだ。
やっぱり、そういう美意識があるんだね。